黄昏の時間~たそがれどき~ 3
〔3〕出発の準備
ここは伸の部屋。
「それが嫌なら、圭を起こして早めに出発すればいいだろ? 起こしてあげたんだから遅刻しないようにね。それじゃ、ハンスさんの家で・・・」
伸は電話を切った後もくすくす笑っていた。
「伸はほんと意地悪ね」
電話を切った伸に向かって遼は言った。
「ああでも言わないと、あの二人は何時になったら来るかわかんないだろ?」
「それもそうだけど・・・」
「さぁ、僕たちも用意をして出かけよう」
遼は久々に会う仲間に対して以前と変わりない伸の態度をいまさらながら再確認し、電話の向こうの二人が少し可哀相に思った。
さっき伸が言っていたことは、冗談であって本当のことではないが、悠はすぐ真にうける性質だし、圭は伸のこんな性格を知っているので冗談だとわかっているはずだが、悠の前ではそんなことは言えない性質である。
伸は、そんな二人を見て楽しんでいるのだ。
「伸、朝ご飯はどうするの食べてから出かけるでしょ?」
朝が早いのが慣れている遼が、シャワーを浴びている伸に問いかけた。
「シャワー浴びたら作るから遼は何もしなくていいよ」
バスから伸の返事が返ってきた。
「でも、簡単なものなら作れるわよ」
「いいから、もうすぐ上がるから、テレビでも見てまってて」
仲間内ではいちばん料理が上手い伸、遼は伸の言うとおり伸の上がってくるのを待つことにした。
「ごめん、待たせたね」
少しも慌てた様子もなくきちっと支度を整えてキッチンに入った伸。
「なんか手伝おうか?」
遼もキッチンに入って声をかけた。
「いいよ、遼はすわってまってて」
「私にも何か手伝わせてよ。いつも伸にばっかり料理させて悪いわ」
「じゃ一緒に作ろうか」
そして、二人で料理をはじめた。
その頃ハンスさんの家では、耕太、駿介、アリスの三人で明日持っていくキャンプ道具の用意をしていた 。
「テントは二つあればたりるわね」
物置の中から軽いテントを駿介と運び出しながらアリスは言った。
「炭は持っていかないとだめだな、あっちで薪を調達できるかもしれないけれど、火を熾すのに必要だもんな」
次々と運び出されたキャンプ用品を一箇所にまとめ確認を取っていく。
「釣りもできるなら、釣竿や網も持っていこうね」
駿介はアリスを手伝いながら、自分の持ってきた釣竿より大きな釣竿を物置の中で見つけ、アリスに言った。
「父さんが持って行くはずよ。近くに川が流れているからきっと大きい魚が釣れるわよ」
キャンプに行くのだから近くに水辺があることを承知で駿介は釣竿を持ってきたが、あまり釣りが上手くないので、上手な人に教えてもらいたいのだった。
「釣り方教えてくれるかな?」
「大丈夫、父さんは釣り好きだからきっと教えてくれるわ」
「よかった」
駿介とアリスの話を聞いて耕太は、
「俺もやるから仲間に入れてくれよな」
「はいはい」
たわいもない会話をしながら三人は着々と準備を済ませていった。
〔4〕集合
お昼を少しまわったころハンスさんが帰ってきた。
「みんな準備はどう?」
車も思ったより早く直り、みんなが集まる前に帰ってこれたハンスさんであった。
「お帰り、父さん」
「おかえりなさーい」
「まだみんなは来ていないのか?」
「もうそろそろ来ると思うけれど・・・」
「ちゃんと連絡は入れてあるから大丈夫だろ」
そんな話をしているところに車が2台到着した。
圭、悠、伸、遼の四人だ。
「みんな集まったようだな。後はみんなで用意すれば間に合うだろう」
「そうね」
車から四人が降りて近づいてくる。
「おそくなってごめんね」
「いらっしゃい」
悠と遼は久々に会うアリスに駆け寄っていった。
「こんにちは、少し時間に遅れちゃったけれど無事ついてよかったな」
「こんな早起き久々だよ」
圭は伸に今朝のことを話していたところだった。
「やぁ、みんな変わりなく元気なようだな」
何年かぶりに集まった仲間たちはみんな喜びの表情であった。
「さぁ、みんなお昼ご飯にしょう」
ハンスさんは食事の用意ができたことをみんなに知らせた。
それは、この後始まる楽しいキャンプの為の一時の休息の時間だった。
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