黄昏の時間~たそがれどき~ 2
〔2〕出発の朝
・・・トゥルルル、トゥルルル、トゥルル・・・
何時から鳴っていたのだろうか?
枕元の電話の呼び出し音が耳に入ってきた。
まだは半分寝ている頭だったが、どうにか腕を伸ばし受話器を取った。
「はい、もしもし?」
『もしもし、悠』
『遼ちゃん、どうしたのこんな時間に?』
時計を見れば、まだ、午前6時を少し回ったばかりだった。
『ごめんね、起こしちゃって』
遼が電話の向こうから謝ってきた。
「うんん、気にしないで。で、どうしたの?」
『今日のキャンプのことなんだけど、予定変更になって、明日の朝出発することになったのよ。だから一旦、ハンスさんちに集合だって』
遼の話によるとハンスさんの車がトラブルを起こしてしまい、直るのが今日の夕方になってしまうということで、明日に延期になったそうだ。
「みんなに連絡は取れたの?」
『うん、私は伸と行くつもりでいたから伸の家へ来てたのよ。連絡くれたのは耕太からだったのよ』
「駿介は?」
『耕太が駿介と一緒にハンスさんとアリスを迎えに言ったらそういう話でね』
「そうか、わかったわ。それじゃ・・・」
『やっぱり伸の言うとおりだった』
「えっ?」
『圭と悠が一緒だってことよ』
遼が受話器の向こうで急に笑い出していった。
遠くのほうで微かに伸の笑い声も聞こえてきた。
「なっ、何よいきなり笑い出して?」
『だって圭の家に電話したら、留守だったからきっと悠のところだよって、あっちょっとまってて』
保留のメロディが耳元から聞こえてきた。
「えっ、何?」
そして保留のメロディが切れ、
『おはよう、悠。圭は元気?』
受話器から聞こえてきたのは意味ありげな笑いを含んだ伸の声だった。
『君も大変だね』
「伸、何が言いたいの?」
『別に、それより君のとなりで気持ち良さそうに寝ている圭にも伝えてよ。明日の用意もあるからお昼頃までにハンスさんの家に着くようにって。遅刻したら明日の雑用全部やってもらうからね』
「えっー!」
『それが嫌なら、圭を起こして早めに出発すればいいだろ? 起こしてあげたんだから遅刻しないようにね。それじゃ、ハンスさんの家で』
そう言うと、伸は有無を言わせず電話を切ってしまった。
「もしもし、伸!もう~・・・ったく」
溜め息と同時に、隣を見れば、本当に気持ち良さそうに悠の片腕を抱き締めて寝ている圭がいた。
そんな圭の頭をあいているもう片方の手で軽く小突いた。
「圭、起きて!」
捕まっている腕を動かしてみても一向に起きようとせず、なおもしがみついて来る有様だった。
「伸も良く私たちのことわかっているわよね~」
全く、伸の言うとおりじゃない。
小突いても起きる気配のない圭に、ぐずぐずしていられない悠は、最終手段を取った。
これをすると必ず圭は起きる。
「うん・・・んっ!」
「おはよ、圭。目覚めた?」
にっこりと笑顔で圭に声をかけた。
「悠、何つ~起こし方するんだよ!」
やっと焦点が合って、目の前に悠の笑顔があり、しかも、こんな形で起こされるのは久々の圭だったので、思わず驚きの声をあげた。
「でも、良かったでしょ?」
「ん、まぁ・・・」
悠はキスで圭を起こしたのだった。
「いったい今何時だ?」
「もうすぐ午前6時30分になるところ」
やっと腕を放してもらった悠はベッドからおり、着替えをしながら言った。
「さっき、遼ちゃんから電話があって、今日のキャンプ明日に延期だって、それでとりあえずハンスさんちに集合だって」
「ったく、それでこんなに早く起こされたわけか・・・」
寝たりなそうな顔で圭は大きな欠伸をして、頭を軽く振り、頬をパンパンと叩いてみたりする。
「圭、ぐずぐずしてると朝ご飯食べてる時間がなくなるわよ!」
ベッドの中でまだ゛ぼ~゛としている圭をおいて悠は部屋を出て行った。
「は~、起きるかぁ」
圭はやっとベッドから起き上がるともう一度大きな伸びをして、ガウン姿のままダイニングルームに足を運んだ。
圭がダイニングルームにくるとキッチンから小気味よい包丁の音が響いていた。
付け加えて、楽しそうな鼻歌も交じって、悠はキッチンの中をてきぱきと動いていた。
「今朝は何?」
「鮭の塩焼きと、大根の味噌汁、白菜の浅漬けだけど、いいわよね?」
「ああ、お前のエプロン姿って可愛いな」
「あのねぇ~」
「悠、一緒に暮らそうぜ」
「何でそういう話になるの?」
「俺の部屋、ここ一ヶ月ほど帰ってないだろ?」
「勝手に帰らずに、私の部屋に来てるんでしょ!」
「一緒に暮らせば経済的にも安上がりだしさ・・・・」
「っんなこといってないで、さっさと着替えてきなさいよ。置いてくわよ!」
「ほ~い」
「さぁ、出来たわよ」
「何でそんなに急いで出かける必要があるんだ? 明日の出発ならそんなに急ぐことないだろ?」
いただきますときちんと手を合わせ、朝食を食べ始めた悠に圭は問いかけた。
「それがね、伸から伝言で、『明日の用意もあるからお昼頃までにハンスさんの家に着くように。遅刻したら明日の雑用全部やってもらうからね』って言わたのよ」
悠が伸からの伝言を圭に伝えた。
「そんなのほっとけばいいだろ・・・」
お漬物をカリカリと音をさせながら、素っ気なく圭が言う。
「伸が言うんだから、逆らったら後が怖いでしょ」
「それもそうだな」
「悠、終わったぜ」
車に荷物を積み終わった圭は玄関で中にいる悠に声をかけた。
「はーい、今行くわ」
リビングから悠の声。
圭がのぞくと指を指しながら火の元や水回り、電気の消し忘れなどの確認をしていた。
「悠?」
「よし、すべてOK。ごめん、待たせたわね」
「いや、行こうか?」
「それじゃ、出発進行!」
そして二人、車に乗り込み、いざ、ハンスさんの家へ・・・
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